top of page
mushimegane_header_edited.jpg
ombuds_logos.png

市民オンブズマン習志野の取り組み

下水道課不正契約事件

​ 当時、市長部局にあった下水道課の職員が、契約を行わないまま業者に物品を発注、工事を発注するなどし、その代金を支払うために、他の工事に金額を上乗せして契約、補填していた事案。入札の金額制限にかからないように分割発注するなど、地方自治法ならびに習志野市財務規則違反のほか、契約の金額を水増しした契約書の作成など虚偽公文書作成等および同行使の疑いがあるもの。
 また、本件は習志野市職員の公益通報により発覚したものであるが、習志野市の公益通報制度が機能していたかについても疑義が生じている。
 習志野市は、本件について市として市民に伝えることをしておらず、市議会や委員会でも、公益通報事案であることを理由に、調査内容に触れる部分は回答をしない姿勢だ。
 このような市の対応に対して、市民オンブズマン習志野は住民監査請求を行った。
 監査結果の報告を受けて、ようやく多くの内容が明らかとなったが、依然として不明点や疑問点も多く、続けて行なった情報公開請求は全部非開示の決定をするなど、市は市民に対し、事案の秘匿化、情報を適切に開示しない姿勢を示し続けている。
事案の経過と市民オンブズマン習志野の取り組み
​事案の発覚

​ 習志野市は、2023(令和5)年10月25日、「職員の懲戒処分について」を市のホームページで公表した。

 習志野市は、懲戒処分を行なった事実について、

”被処分者は、平成30年度から令和元年度に、下水道課において本来必要な契約手続きを行わないまま、業務を実行させた。その後、当該業務にかかる経費を別契約において数回に分けて上乗せし、分割して支払いしていた。

 このことは、地方自治法ならびに習志野市財政規則および習志野市公営企業会計規定違反であり、その責任は免れない。よって、地方公務員法第29条第1項第1号ないし第2号、ならびに本市懲戒処分の指針の規定に基づき、処分を行うものである。”

と概要を乗せたPDFファイルをホームページに掲載した。

 しかし、懲戒処分を行なうにあたり、その理由を記載しているに過ぎず、不正行為について公表や市民に積極的に説明するような機会は設けられなかった。​​

​ *習志野市職員の懲戒処分について

報道により不正の概要明らかに。発覚は内部告発

​ 2023(令和5)年11月17日の定例記者会見において、記者からの質問に答える形で、市長は初めて説明を行った。

​ 市長の以下のように説明をした。​

  • 契約手続きを怠った発注は6回、その費用を分割し、別の工事に上乗せして補填したのは19回。

  • 発覚時点で業者への未払い金額は121万7千円(消費税別)。

  • 市と業者双方に(金銭的な)被害は出ていない(市側の弁明)。

  • 調査の結果、2年以外で不正はなかった(市側の弁明)。

  • 入札等を行わなかった地方自治法違反、契約を行わなかった等の市財務規則違反、公営企業会計規定違反、法令遵守などを定めた地方公務員法違反に該当すると認める。

  • ​書面での契約を定めた建設業法の違反については、市の顧問弁護士に相談した結果、「市の要請に従って行ったことに、要請した市側が法令の抵触・違反を指摘し処分することは難しい」と意見を得たと回答。​​​

  • 警報の虚偽公文書作成については、顧問弁護士の「虚偽公文書作成は、実行行為に該当するとしても、可罰的違法性があるとまでは言えない」との意見を回答。

  • ​内部通報が行われたのは2021(令和3)年11月ごろ。

  • 内部通報の受理から完了までおよそ2年。

  • 調査に2年もかかったのは、調査対象者が市長部局と企業局におり、複数の聞き取り、内部通報者の保護もあり、十分な時間をかけたから(市の弁明)。

  • 複数の法令に違反しているが、横領や業者に利得を促した事案ではなく、事務的な不適正な行為のため減給10分の1(1ヶ月)の処分で適切(市の弁明)。

​​

 *​下水道課職員の不正問題 習志野市長が謝罪「信頼を損ねる違法行為」-千葉テレビ2023.11.17

 習志野市の下水道課問題 上乗せ発注は19回 市長「違法行為、おわび」2023.11.21東京新聞​​​

市議会で追及も、市は通報者保護を理由に説明を避ける姿勢

 ホームページでの公表、報道を受け、12月市議会では複数の議員から質問が相次いだ。

 市議には公表の前日、ファックスで1枚、処分内容の通知があったのみだという。

 

 市長並びに総務部長(当時)は、不正の内容や調査について話が及ぶと、内部通報者保護を理由に「答弁を差し控える」と、事案について説明を避ける姿勢だ。

 

 12月市議会で、市当局が答弁を控えるとしたものを列挙すると、

  • (不正があった業務の内容を尋ねると)業者の特定につながり得ることから答弁は控える。

  • (不正の手法、不正をすると言い出したのは誰か尋ねると)内部通報の調査に関わることだから答弁を控える。

  • (残額を確認できる資料、職員のパソコンは調査したか尋ねると)調査報告に関わることだから控えさせていただく。

  • (処分された職員が不正を認めたのはいつか尋ねると)調査報告書の内容だから控えさせていただく。

  • (水増し請求をするにあたり二重帳簿があったのか尋ねると)内部通報者保護制度の趣旨から、内容については現段階では控えさせていただく。

  • (工事完了届は誰が確認したのか尋ねると)中身、有無について答弁を控えさせていただく。

  • (内部通報の調査は処分対象者が行ったのではと尋ねると)誰がという特定の部分については内部調査にかかわる案件のため、答弁は控えさせていただく。役職についても答弁を控えさせていただく。

  • (今回通報するに当たって、内部通報者が出した内容はどういうものか尋ねると)何が書いてあったかということについては、調査の内容事項のため控えさせていただく。

  • (通報するに当たって、物的証拠の提出はあったのかと尋ねると)調査の事項であるため答弁を控えさせていただく。

  • (不正があったと信ずるに足る証拠があったと考えて良いか尋ねると)あったか、ないかということについては答弁を控えさせていただく。

と、市は内部通報者保護制度を理由に、市の職員が行った違法行為について、市民・市議会に説明はしない姿勢を示した。

はじめての内部通報。運用に疑問符

 一方で、市議会の追及により、あぶり出されたものもある。

 平成19年に「習志野市職員等の内部通報に関する要領」が策定されて以降、初めての内部通報であることが示された。

  • 平成18(2006)年、公益通報者保護法施行

  • 平成19(2007)年、習志野市職員等の内部通報に関する要領策定

  • 令和2(2020)年、公益通報者保護法改正法交付

  • 令和3(2021)年、初めての内部通報(本件)

  • 令和4(2022)年、改正法施行

  • ​令和5(2023)年、内部通報に係る不正行為を行った職員の処分について公表

​​

​ 要領が策定されて以降、実に14年間、内部通報の利用がなかったということは、何を意味するのか。

image0.png

 内部通報により調査対象となったのは、平成30年から令和元年にかけての業務である。

​ その期間以外についての調査の有無の質問に対し、遠藤総務部長(当時)は、「内部通報を受けて、下水道課における様々な帳簿だとかデータ等を精査をした結果、判明をしたものが、6件の不適切な事務処理があったということでございます。細かい詳細の内容については、調査報告書の中身に触れることでございますので答弁は控えさせていただきますけれども、私ども、いただいた通報に基づいてしっかりとした調査をしてございますので、それ以外にはないものと、このように信じてございます。」と、通報の期間外について調査を行ったかどうかについて回答していない。また、別の答弁で、2017年以前の文書は廃棄しているとも述べている。

 

 しかし、別工事に上乗せして支払ったということは、内部通報によって明らかになったことであり、通報がない限り、書類上で判別することや不正を覚知することは、ほぼ不可能に近い。ここが正に法律で内部通報通報者を保護する所以であり、制度の有用性をを支える要だ。

 通報により不正を覚知したことは総務部長も認めるところだが、それにもかかわらず、先の報道でも、12月議会でも、「しっかりした調査を行ったから、それ以外にはない」と何度も繰り返している。

 また、処分対象者をそのまま(職務に就かせたまま)に調査を行ったのかという質問に対し、「(処分の根拠となった)最終報告が出るまで、従前の組織体制の中でしっかりと業務を推進していただいた」「(調査開始前の事前準備で)総務課と企業局で調査の進め方や質問の内容等、協議を重ねていた」という発言から、処分対象者を従前の業務に就かせながら調査が行われていたということが推認され、調査体制に疑問が残る。市は実際に調査を行った方法や、調査の主体となった職員について、内部通報者等保護を理由に回答をしていない。

 さらに、平成19年に策定されたという習志野市職員等の内部通報に関する要領は、12月市議会の時点でホームページ上で公開されていないことを議員に指摘されている。

 それに対し、市は、内部規定の範疇であるためと回答している。

 しかし、内部通報制度は、自治体運営を支える基本的なシステムである内部統制の重要な要素であり、規制権限を有する行政機関には、令和4年の公益通報者保護法の改正(令和2年公布)により、外部からの公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備を義務付けている。

 外部の事業者等に対する適切な情報提供の不備もさることながら、税金で運営される市の内部統制に関わる制度について、内部規定の範疇と捉えることこそ、習志野市の内部通報に対する姿勢を表しているのかもしれない。

​ 

 内部通報制度を含む内部統制が機能していないのであれば、あるいはそれが機能すると期待できなければ、通報が行われるはずもなく、通報による是正の道も閉ざされることになる。内部通報制度が形骸化し、機能不全に陥っているのであれば、それは住民にとって大きなリスクだ。

 健全な市政運営、ひいては住民の利益の保護を図れるはずの制度の整備・運用を軽視してきたことが透けて見えてくるようである。

 内部通報事案であることを盾に適切な情報開示を行わないということは、議会や市民の検証を妨げる行為に等しい。 

市民オンブズマン習志野、住民監査請求を行う

 習志野市は、公益通報により発覚した事案であることを理由に、下水道課の不正契約事件について、情報を開示しない姿勢を示していることから、市民オンブズマン習志野は、「明らかな不正、違法な公金支出であり、組織的に行っていた」として、令和5年12月18日、習志野市に対し住民監査請求を行った。

 住民監査請求(職員措置請求)は、地方公共団体の違法若しくは不当な財務会計上の行為がある場合に、その住民が居住する地方公共団体の監査委員に対して、監査ならびにその行為に対する必要措置の実施を請求することができる制度だ。

 

 請求は令和5年12月25日に受理され、翌年、1月16日、請求人意見陳述に臨んだ。

 請求人陳述では市に関係書類の提出を求めて情報公開請求したものの、ほぼ白紙の回答だったことや、市議会でも答弁しなかったことを問題視。同様の事例があった盛岡市や宮崎県延岡市では情報を公開したことに言及しながら、「市は、不正支出や不正内容を隠蔽している。監査委員による公正な監査で事実を明らかにしてほしい」と求めた。

​​

​ * 職員措置請求書

image3.png
設置されなかった百条委員会

​ 同じ頃、市議会では、「下水道課における不正な工事発注に関する調査特別委員会(百条委員会)の設置を求める動議」が宮内市議によって提出された。

 

 動議については、

  • 公益通報者保護を理由に過剰に秘匿し、事務の執行・不正の内容について検証できない状態であること

  • 上記同理由で、処分が適切であったか、検証できない。

  • 内部通報制度の運用について疑義がある。

  • ​本件について、未だ正式に市から説明がない。

​ことが提出に至った理由である旨、説明がなされた。

 しかし、百条委員会設置の議案について、賛成9名、賛成少数で否決された。

 動議に対する議員の賛成・反対の意思表示は以下の通りである。

  • 賛成議員:鴨・佐野・大宮・宮内・佐藤・平川・入沢・荒原・谷岡

  • 反対議員:木村(孝)・金子・三代川・宮本・荒木・斎藤・央・市角・寺川・高橋・関根・飯生・相原・田中(真)・田中(慶)・丸山・布施・金井・木村(孝浩)

 百条委員会の動議が提出されたのは12月22日。新聞報道以外にほとんど内容が明かされていなかった時期である。 

 百条委員会の設置に賛成をしなかった議員は、市の一連の過度に説明を避ける姿勢、不正の詳細、調査の内容について不明瞭なまま、なぜ百条委員会の設置に反対したのか、議員として本件をどのように捉えているのか、とても興味深い。​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

習志野市議会_百条委員会設置動議_会議録

スクリーンショット 2024-08-10 13.20.05.png
image2.png
住民監査請求は棄却も、一部不正の内容が明らかに

 市民オンブズマン習志野が行なった住民監査請求からおよそ2ヶ月後、令和6年2月19日、住民監査請求の結果が報告された。

 請求結果は、すでに未払金の清算および是正措置が取られているとして、「棄却」であった。

 しかし、監査委員は関係職員や業者名をアルファベット表記にするなど、通報者の特定につながる記述に配慮しつつも、不正行為を行なった人物や事業者の職務上の関係、不正行為の具体的な内容に及んだ監査結果報告を作成、公表した。

 この住民監査請求により、市が説明をしてこなかった本不正事案の多くの部分が明らかとなる。

 

 監査委員によって明らかにされた内容は以下の通り。​​​​​

  1. 2018(平成30)年度、都市環境部が実施する清掃イベントで必要となった清掃用胴長、レーキについて、都市環境部副技監が下水道課主幹に相談。業者に借用を打診するも困難と回答があり、下水道課で購入を決定。業者Aに依頼、納品。予算外のため、下水道課主幹は契約手続きを行わず、他の請負工事に上乗せして支払うことを決定。事務担当であった職員Dに指示し、支払いに関する事務を行わせた。
    ★関係者:都市環境部・都市環境部副技監・下水道課主幹・下水道課事務担当D・下水道課課長・下水道課係長・業者A
     

  2. 2018(平成30)年度、市民まつり事務局から下水道課へ会場整備の協力依頼。下水道課課長は係長E及び職員Dに整備を指示、係長Eと職員Dは、業者Aと現地確認。費用について、契約手続きを行わず業者Aに発注。予算外のため別工事(下水道関連工事)に上乗せすることを決定。一般予算会計予算で処理・執行すべきところ、下水道事業会計で処理。
    ★関係者:市民まつり事務局F・下水道課課長・下水道課主幹・下水道課係長E・下水道課事務担当職員D・業者A
     

  3. 2018(平成30)年度、水路ネットフェンス工事費用について、緊急的に対応する必要があり、業者Aに発注。支払いについて契約手続きを失念していた職員Dは、別工事(下水道関連工事)に上乗せすることを決定。
    ★関係者:下水道課事務職員D・業者A
     

  4. 2019(令和元)年度、下水道課と公園緑地課の土地の所管移管のための車止め撤去整備について、予算編成に間に合わなかったことから、主幹は他の請負工事(下水道関連工事)に上乗せすることを決定、職員Dに指示し、支払いに関する事務を行わせた。
    ★関係者:公園緑地課・下水道課主幹・下水道課事務職員D・業者A
     

  5. 2019(令和元)年度、マンホール補修工事について、工事着工後に想定外の出水が判明、工期が延長されることとなり、担当課契約の可能な額(130万円)を超えるため、下水道課職員Dは、当初見積額で契約、残金を別の工事等(下水道関連)に上乗せすることを決定、職員Gが支払い事務を行なった。
    ★関係者:下水道課職員D・下水道課職員G・(係長H?)・業者B
     

  6. 2019(令和元)年度、マンホール・下水道管移設工事について、下水道課職員Dは、宅地業者の要望に応えるため、入札を行わないで済むよう金額を分割し、入札を行わず随意契約として契約、残金を別工事に上乗せして支払うことを決定。金額の管理や支払いに関する実務は職員Gが引き継いだ。
    ​★関係者:下水道課職員D・下水道課職員G・業者C

不正事案図解2.png

​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

 上記のほか、監査結果では主に以下の事柄が明らかにされている。​

  • 無関係な別の工事契約の見積書・契約書ないし請書および請求書等に水増しする形で業者に記載させていた。

  • 上記方法により取得した書類を証拠書類として使用し、内部手続きを通過させていた。

  • 上記手法の結果、適正ではない工程や単価が記録された。

  • 別工事に上乗せして支払う金額(未払い残高)について、エクセルで管理、共有フォルダで保管していた。

  • 残金の支払いについて、不定期に分割して支払いを行なっており、工事を実施した業者に対して支払いを遅延させていた。

  • 下水道課では、主幹・係長・事務担当職員が主に行なった。課長へ事後的に報告があったものもある。

  • (内部通報に関する)中間報告は令和5年2月20日付で市長および企業管理者宛てで発出

  • 残金について、企業局は各業者と令和5年3月3日〜6日付で、金額に相違がない旨合意書を取り交わし、同年3月29日に清算した。

  • 本来の支払い時期と、本件発覚による清算の時期のずれから、本来、消費税額が8%だったところ、10%で収める結果となった。

  • ​令和5年6月30日付、「内部通報報告書」提出

  • 令和5年7月7日付、市長から企業管理者に対して「内部通報にかかる是正措置について(勧告)」

  • 令和5年8月2日付、上記勧告に基づき下水道課に係る「内部通報にかかる是正措置(報告)」を報告

​​

 *住民監査請求結果

報道、答弁との整合性に疑問

 今回、市民オンブズマン習志野が行なった住民監査請求は、内部通報の原因となった不正行為について、「違法な財務会計上の行為がある」として行なった。

 住民監査請求を受けての監査は、違法・不当な財務会計上の行為に限定されるため、内部通報そのものについては監査の対象外だが、不正行為の多くの部分の内容が明らかになった。​​​

 監査結果で公表された内容について、市民オンブズマン習志野が新聞報道、市議会の答弁等と併せて検証したところ、多くの疑問が生じた。

ーなぜ、内部通報の調査に2年も要したのか

​ 令和5年12月市議会の市側の答弁によると、通報があったのは令和3年11月頃。受理をし、通報の原因となった不正行為の関係者の懲戒処分を公表したのが、令和5年10月である。ほぼまる2年間かかっている。

 

 受理から公表まで時間を要した理由について、市側は市議会で以下のように弁明している。

【調査開始前】

  • 市長部局と企業局それぞれに調査対象者がいた。

  • 市長部局と企業局で、質問の内容、調査の進め方の整合性を図るために調整を重ねていた。

  • 内部通報が初めての事案だったため、近隣市から情報を収集するなど事前の準備を入念に行なった。

【調査中】

  • 聞き取り中は、関係者が複数発生した場合の追加の聞き取り、対象者に複数回聞き取りを行った。

  • しっかりと十分な時間をかけて事の本質を見抜くことを大事にしたことが一番の遅れた理由。

  • 通報者保護のため、最小限の人員で行なった。

  • (内部通報を担当する総務課の)通常業務と並行して行なっていた。

​【調査終了後】

  • 調査終了後は是正勧告や是正の措置の構築、処分に係る一連の手続に要した。

ー朝日新聞が公開した内部通報報告書

 朝日新聞は、1月17日、情報公開請求で入手した調査報告書を公開した。

 *指示なくても部下も不正 黒塗りの報告書から見えた習志野市の問題-2024年1月17日朝日新聞

内部通報報告書.jpeg

 2/3が黒塗りという公開された報告書によると、

  • 通報が受理されたのは令和3年11月18日

  • ​調査期間は令和4年3月2日〜令和4年12月6日

​であることが判明した。

 *内部通報報告書(令和3年11月18日受理)令和5年6月30日習志野市総務部総務課作成

​​​ 

 議会では、通報があったその年の年末には調査を開始したと総務部長は答弁をしていたが、報告書に記載された調査期間の始まりは翌年の3月となっており、調査開始時期が、市議会での答弁と調査報告書の記載が一致しない。

 

 公益通報者保護法では、通報者にとってよりハードルの上がる報道機関など広い外部への通報の保護要件のひとつに、「書面により事業者内部に公益通報をした日から20日を経過しても、通報対象事実について、事業者などから調査を行うとの通知がない、あるいは、正当な理由がないのに調査が行われない。」が挙げられている(公益通報者保護法3条3号ホ)。

 実際に、通報者に調査を行う通知を行なったか定かではないが、「公益通報をした日から20日」というは内部通報を受けてから調査が決定される日数の標準的な目安といえるだろう。

 調査の決定がなされれば、通報の原因である不正の調査・是正は早急に対応する必要があるはずだが、習志野市の内部通報報告書の通報から3ヶ月半も経った日付が調査開始日との記載が事実なのであれば、相当に遅いことがわかる。

 その上、調査自体が長期に渡ったことについて、通報者が承知していたのかという谷岡議員の質問に対し、(調査)途中で通報者から「まだか?」という問い合わせがあったことを市側は認めている。問い合わせの時期については不明だが、適切にフィードバックがされていなかったことを物語っている。こういった対応も、通報者の不信を招き、内部通報が機能していないと判断される要因となる。

 公益通報制度は、まずは内部で、それがダメなら行政に、最後に報道機関等の外部への通報というように、3段階で要件を定めて保護対象としている。
 外部通報の保護要件は、内部通報で事業者の自浄作用を期待することができないような場合を想定されており、習志野市の内部通報制度は、内部の自浄作用が働かない、機能不全であると、内外に示したも同然だ。

 それは今後、内部通報が機能せず是正が期待できないとみなされ、内部通報を経ずに外部に通報される可能性を高めるばかりでなく、事業者や労働者から通報を受ける機関(行政通報)としても機能が期待できず、制度そのものを損なう行為で与える影響は大きい。

​​

 なお、正当な理由とは、調査をしないことについて正当化される事情がある場合をいい、すでに対象事実について調査がなされており、さらなる調査の必要がない場合や、通報者と連絡が取れないなどが例示されており、調査の進め方についての情報収集や調査を行う側の擦り合わせなどは想定されていない。

 市民オンブズマン習志野は、「近隣自治体に直接聞き取りを行うなど、準備に時間を要した」との総務部長の答弁をもとに、「直接聞き取りを行った」という自治体に情報公開請求をした。

 その結果、千葉県にメールでのやり取りの記録が残されていた。

 

 入手した資料によると、千葉県には2021年12月7日に、電話で問い合わせをしていることがわかった。

 メールの内容から、内部通報者への受理・不受理の通知、担当課への通知の書式を尋ねており、その他千葉県から内部通報処理の簡単なポイントの教示や通知書式をメールで受け取っている。

 習志野市と千葉県のメールのやりとりは2回、12月14日の千葉県からの返信で終わっている。

 その他の千葉市・市川市・船橋市は、そのような記録はないと回答があった。​​

 唯一聞き取りが行われたと言える千葉県とのやりとりも、時間を要した理由として挙げられるほどのものとは考え難い内容であったが、千葉県以外の3市には、文書を残さない程度の軽微な聞き取りだったか、聞き取り自体していなかったのであろう。答弁では直接聞き取りを行なったなど、さも準備を入念に行ったかのように言っていたが、蓋を開けてみればこんなものである。

 

 では、なぜ、調査まで3ヶ月半もかかったのか。

 ​

 市側が縷々主張する調査に時間を要した理由は、正当化するに乏しいものばかりだ。

 通報により不正が行われた可能性を覚知しながら、調査が急がれなかったということは、何を示すのか。

 不正行為だけでなく、内部通報制度の整備・運用のマズさをごまかすための言い訳も重ねざるを得ない格好だ。いずれにしても市の調査、それを受けて出した結論の妥当性、信頼性、是正措置の実効性に疑念を生じさせるものだ。

 

 しかし、市は、あくまで通報者保護を盾に詳細の説明を拒み、情報公開請求も開示を避ける姿勢を崩さない。

ーなぜ不正行為が行われたのか

 市側は不正行為が行われた理由を

  • 予算措置のない業務であった

  • 時間的制約の中で早急に対応しなければならなかった

  • 契約手続に関する認識の緩み

  • コンプライアンス意識の低下

などと挙げていた。

 

 しかし、監査結果を読むと、確かにどれも予算措置はされていないものであったようだが、計画性のなさ故と言えるものも散見される。緊急にあたると言える事案も少数である。​​さらに契約の失念を糊塗するために行われた事例も含まれる。​市は、杜撰な事務処理や怠慢があったことを知らせたくないようである。

 6件中3件は、都市環境部実施イベントに必要な物品の用意、市民まつり事務局の会場整備要請、公園緑地課の車止め撤去については、市の内部、職員同士の相談や協力要請で発生した業務だ。

 たとえ予算措置がなくても必要な事業なら、手続きを踏めば事業費をつけることはできるという。

 確かに、契約手続きに関する認識の緩みやコンプライアンス意識の低下というのはあっただろう。

 だが、今回の不正行為は、単に事務的な手続きを怠ったという話だけにとどまらない。

​ 契約の手続きを怠ったことは、市の財務規則等に反する行為だが、他の工事に上乗せして支払いを行うということは、本来のその工事金額ではなく、金額を水増しした虚偽の工事金額で契約書等を作成するということであり、刑法に規定する虚偽公文書作成等罪に当たる行為だ。

 虚偽公文書作成等罪は刑法第156条に規定されており、真実に合致しないことを認識しながらその文書を作成した場合は、虚偽公文書作成等罪に問われ、印章・署名がある公文書の場合には、1年以上10年以下の懲役、印章・署名のない公文書の場合には3年以下の懲役または20万円以下の罰金に処される可能性がある。

 その上、公務員である習志野市の職員が指示を出し、事業者に水増しした虚偽の見積書を作成させている。

 これらの一連の行為について当時の総務部長は、

  • このたびの事案が公文書偽造に当たるのかどうかということについては疑問を生じたところであります。したがいまして、弁護士に相談を申し上げ、弁護士からは、作成権限のない者が作成したものでないというようなことから、この公文書偽造には当たらないと、このような御見解をいただいた上で、私どもとしては、この処分には公文書偽造は当たらないと、このように判断したところでございます。

  • 公文書偽造ではなくて虚偽公文書行使というところの御指摘なのかなというふうに思います。そちらについても、私ども、弁護士のほうに御相談を申し上げてございます。この虚偽公文書の行使につきましては、実効的な行為があるというふうに言ったところで、もう一方でこれが罰を与えるだけのものに値するのかどうか、可罰的違法性ということにたしか弁護士は言ってたと思いますが、それにも当たらないということでございました。したがいまして、先ほど申し上げましたとおり、公文書の偽造、そして、この虚偽公文書の行使、このような刑法の中に値しないという意見を基に、繰り返しになりますけれども、この不適切な事務処理という本市の指針に基づき処分をさせていただいたところでございます。

  • このたびの虚偽公文書作成については、実効的な行為に該当するとしたとしても、これが罰を与えなければならないほどの罪なのかと。これを可罰的違法性と言うらしいですけれども、それについてはあるとは言えないという弁護士からの回答をいただきました。

と、前半は回答がやや噛み合っていないようにも見受けるが、実効的な行為には当たるが、罰を与えるほどの罪であるとは言えないという弁護士の回答に基づき、判断したとの答弁だ。​

 実に不可解な主張である。

 少なくとも実行者は、法に基づき処理・執行する公務員であり、その公務員が指示を出し、業者に虚偽の見積もりを提出させ、それが虚偽の見積書であると知りながら、公金を支出するための虚偽の書類を作成し、会計管理者を欺いて公金を支出させている。それ自体は、たとえ着服や贈賄等の行為が伴わなくても、違法行為であることに変わりはない。

 また、公務員には職務を行う中で犯罪があると思われる場合には、告発義務がある(刑事訴訟法第239条第2項)。

 公文書に関わる改ざんや虚偽記載は、新聞やニュースで連日報道されていたはずだ。

 管理者、職員、事業者双方に、また調査・処分を行った者も、これらの行為が法令に反し、処罰の対象であることは認識がないはずがない。

 それでもなお、なぜ違法行為を行ったのか。

 議会では不正行為・調査に関わる内容について、やはり通報者保護を理由に答弁をしない。

 総務部の作成した内部通報の調査報告では、ほとんどが黒塗りであり、「主幹は、■することを最優先に考えた」と記載されているが、調査の核心となるべき「なぜ不正が行われたか」に言及する内容は見当たらない。

 その上、「今回、対象となった■の一部は、下水道に係る緊急性が認められるものもあり、現場担当としてはスピード感をもって対応する必要があったことは理解できる。」と、一定の理解を示す記述がなされるなど、何のための調査報告なのか、疑問を感じざるを得ない。

ー不正行為はなぜ止められなかったのか

 下水道課の不正行為は、企業局に移る前、市長部局に置かれていた時から行われていたことが分かっている。そして企業局に移管されてもなお、継続していた。​

 緊急的なものも含め、予算外の工事がこの3年だけに発生したとは考え難く、このような不正行為が3年前に突然始まり、3年間だけ限定的に不正が行われたと考えるのは不自然だが、市はこれ以外に行われていないと断言する。​

 ​​内部通報報告書のまとめには、

【不正行為の指示を出した者】​​​​

  • 平成30年度は主幹と係長

  • 令和元年度以降は、一部案件について主幹と■(黒塗りのため不明)。基本的には担当者に任せていた。​

【上席・管理職の関与】

  • 課長は事後報告を受けることが多く、適切な指示は行わず、黙認していた。

  • 課長は上司へ報告しなかったため、部長・次長は承知をしていなかった。

【実務を行った者】​​

  • 平成30年度は職員2名

  • 令和元年度以降は職員3名

​と記載されている。

しかし、

  • なぜ、当初、不正行為を行うと判断した主幹に対して誰も何も言わなかったのか。

  • ​なぜ、事後的な処理を行うことすらできなかった(しようとしなかった)のか。

  • なぜ、課長はそれを黙認し、上司へ報告もしなかったのか。

  • ​なぜ、これまで内部通報が行われなかったのか。

についての記載は見当たらず、報告書は通り一遍の形式的な聴取、結論がただ記載されているだけのものと言う他ない。

 

 なぜ不正行為が止められなかったのか、なぜ平成30年に始まり、令和元年度で不正行為をやめたのか、原因の追求がなされた形跡はなく、通報から1年7ヶ月もかかったものとはとても思えない代物である。
 それどころか、内部通報が行われた不正行為の是正のため、その原因の調査というより、ひとまず内部通報事案を処理するために調査を行ったという実績づくり、形式的に責任(処分)の所在を分別し、組織的ではないと主張するために作られた様相を呈している。​

 ー追記ー

 朝日新聞は非公開範囲を不服として審査請求を提出、行政不服審査会は、公開範囲の再検討を求める答申を宮本泰介市長に出したことが報道により明らかになりました。

 *公開範囲の再検討求める答申 習志野市不正発注で行政不服審査会 ー朝日新聞デジタル2024.10.3

 

 この件に関するオンブズ通信の記事→習志野市の部分公開・非公開処分、処分取消し、違法と答申

関係者の処分は7人、それでも組織的ではない

​ 上述したように、市はあくまで組織的ではないと言う。

 市は、「部長や次長等の上席、上司に報告がなされない」「課の合意に基づいて行なった」ものでないものは、組織的ではないという理屈だ。

 宮本市長は令和5年11月の定例記者会見で、「処分となった3人の管理職が中心となって部下に指示し、職員はそれに従った。組織的に行ったとは思っていない。」と述べている。

​​

 内部通報報告書は、

  1. 事案の概要

  2. 調査について(調査手法、調査期間、調査対象者、書類調査)

  3. 聞き取り結果に基づく事案の内容(業者Aについて、業者Bについて、業者Cについて、組織的関与)

  4. 業者への聞き取り

  5. 業者との清算

  6. まとめ

​の6項目から構成される。

​ 内部通報報告書(令和3年11月18日受理)令和5年6月30日習志野市総務部総務課作成

 このうち、1〜3についてはほとんどが黒塗りであるが、調査期間と組織的な関与、業者との清算、まとめについて一部伏せ字の上で開示されている。

 その「組織的な関与」については、こう記述されている。

​​

 ”各年度における、習志野市■(■)、■(■)、企業局■(■)、■(■)に聞き取りを行ったが、本案件にかかる報告は受けておらず承知していないとのことであった。

​ また、■(■)は、本案件の発端となった■について■(■)に相談はしたが、■手法については、一切承知していないとのことであった。

 ■(■)も、1つ1つの■について部長、次長等に報告はしていないと言っており、本案件について組織的な関与はないものと考える。

 その他、支払いにかかる事務を行う習志野市会計課および企業局業務部経理課については、■(見積もり)金額と請求金額を確認しているものの、これら書類から上乗せがあったことを見極めることは困難であり、本事案への関与に結びつけることはできない。”

​ ​​​​​

 

 本件不正行為は、組織に属する職員が、職務を遂行するにおいて、課長や係長、主幹の指示のもとに行われた行為であって、事後的に追認している場合も含め、黙認してきたのである。

 そして、不適切な事務処理を行ったとして、7人が処分されている。
 

*​

​​​​ 今回の不正行為のように、予算外の業務や期日が切迫するようなケース、緊急的な業務は毎年起こりうる。

 しかし、今回の不正行為以外にはないという市の説明をそのまま受け取れば、平成30年度に、初めてこの不正な手法がとられ、令和元年度にやめているということになる。

 なぜ不正が始まり、なぜやめたのか、調査報告書からは読み取れない。

 

 むしろ、不正の手法が職員の中で、引き継がれ、常態化していた可能性を考える方が自然である。実際に本件は、引き継がれた形跡があるのだ。

 課長の黙認はなぜされていたのか、部長・次長へなぜ報告をしていないのか、未払い代金を共有フォルダで管理していたのは、隠す必要がなかったからではないか・・・いずれも内部通報報告書の公開部分には記載がない。

 つまり、緊急時だけというように場面を限定されていたとしても、管理職を含めた職員の中で、あるいは部全体、市全体で、場合によって不正な方法を含む非公式な方法で処理することは、必要悪というような認識があり、敢えて上席・上司には報告をしない、暗に処理をする、そうすることがむしろ実務ではスタンダードで正当化されるものであった可能性だ。

 こうした取扱が不文律であったからこそ、「なぜ不正が行われたか」「なぜ不正が止められなかったか」について言及がなく、まるで職員を擁護するかのような姿勢が内部通報報告書に現れていたのではないか。

​​​

 また、本件が内部通報事案であるという点から見ても、非公式ながらも組織的に行われていたと、同様のものがあった可能性が浮かびあがる。​

​​

 内部通報者は職場内で何らか自己の努力では是正が図られないと判断し、通報に踏み切るケースは多い。

 職場内で行為者に不正やミスを指摘したり、上司等へ相談や進言をしたとしても、是正を図ろうとしない、そもそも取り合おうとしない、握りつぶされるなどがある。逆に通報者が咎められる、業務へ関わらせない、通報者を疎外する、嫌がらせを行うなど、是正への妨害行為が行われることもある。

 そして、不正行為は黙認された上に重用されていく様子を間近で見ている多くの職員にとっては、そうすることが「職場での上手な立ち回り」に映る状況だ。

 

 今回、内部通報に及んだのも、当該職員から指摘や進言があっても、是正が図られなかった、権限を有するものを中心に”組織的に行われていた”という高い壁があった可能性は否めない。

 今回の内部通報の初動の遅さ、長期に渡る調査期間も、通報事実である不正行為に対して調査と是正を急ぐという考えがあったとは受け取れない。調査する側も含めて、不正行為を「大したことではない」と捉えるような組織風土があり、不正行為を矮小化する判断が、調査の長期化に、少なからず影響したのではないだろうか。

 そもそもそのような組織風土で、本質に踏み込んだ調査や考察が行われたと言えるのか。​

 遠藤元総務部長がいう、「事の本質を見抜く調査」とは何だったのか。

image0-2_edited.jpg
優越的地位の濫用か、癒着か

​ 内部通報により発覚した一連の不正契約は、6件346万円相当であった。そのうち、225万円相当を他の事業の金額を水増しして支払ったのが19件、残り121万円分を未払いとして、令和5年度末に各業者と合意文書を交わし清算した。

 正規の契約手続きを踏まなかったために、4〜5年も前の工事の支払い121万円が滞っていた。​​​​

不正契約_業者別支払状況.png

​ 令和5年12月5日の定例会での宮内市議の「延滞料の支払い」についての質問に、市は、「このたびの未払い額の解決に当たり、その清算につきましては、本来、過去の年度において支払いがなされるべき未払い額121万7,000円、これが令和4年度に判明し確定されたため、未払い額に税額を加えた額で支払い処理を行ったものでございます。 また、その支払いに当たりましては、相手業者との協議を行い、これ以上債権債務はないことを確認して双方合意に基づき支払い処理を行ったものであり、双方に損害がないものと認識しております。」と説明している。

 令和元年10月に消費税率8%から10%の改定が行われている。

 支払いの対象である工事は、消費税率8%の平成30年から令和元年に行われたものだが、契約書や請書を交わさなかったため、消費税率10%を適用せざるを得なかったと監査結果にある。

 不正行為によって多く納めることとなった消費税は、住民の税金が原資の公金である。

 この点において、双方に損害がないという言い分の真意は不明だ。

 

 また、遅延損害金について、渡辺業務部長は「清算した金額は、見積額の121万7,000円に消費税を加えた額が総額とな」ると答弁しており、遅延金は支払われていない。

 

 今回の不正契約による支払い遅延は、独占禁止法に定める「優越的地位の濫用として不公正な取引方法」に該当し、違法となる可能性がある。

 優越的地位の濫用とは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為のことで、独占禁止法により,不公正な取引方法の一類型として禁止されている。

 取引上優越した地位にある委託者(市)が、正当な理由がないのに、契約で定めた支払い期日に代金を支払わず、受託者が今後の取引に与える影響等を懸念して、それを受け入れざるを得ない場合には、正常な商習慣に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、優越的地位の濫用として問題になる。

 事実、12月12日の谷岡議員への答弁で、総務部長は「相手方業者は市の要請に従わざるを得ず行ったものであり、市側に全ての責任があると認識している」と答えている。

 

 今回のように、契約書を作成していない場合については、「政府契約の支払遅延防止等に関する法律」の国を地方公共団体に読み替えて準用される。同法では、「相手方が給付を終了し国がその旨の通知を受けた日から十日以内の日、同条第二号の時期は、相手方が支払請求をした日から十五日以内の日と定めたものとみな」すとされている。

 これは法的な効力があるもので、たとえ双方の合意があったとしても、支払い期限を変更することはできないという。契約書等の締結がなく、法に定める期日を超えての支払いは、法10条に違反し遅延となるおそれがある。

 遅延損害金は、金銭債務の支払期限を過ぎた場合に発生する損害の賠償金のことで、債務者が遅滞した期間に比例して、債務の額に対して一定の料率で計算される。遅延損害金は借主への罰則と捉えられているため、利息よりも利率の相場は高めである。

 先の政府契約の支払遅延防止等に関する法律では、支払い時期までに対価を支払わない場合、「第八条の計算の例に準じ同条第一項の財務大臣の決定する率をもつて計算した金額と定めたものとみなす」とされている。

 令和5年3月当時で、年率は2.5%と定められている。

 〇政府契約の支払遅延に対する遅延利息の率(財務省HP)

 未払金に税額を加えた額で双方合意に基づく合意書が取り交わされ、そこに遅延損害金の支払いが含まれていないのであれば、立場上、業者は市の要請に従い、一方的に契約書のない工事の履行というリスクを負わされ、市の職員の指示を受け虚偽の見積書の作成せざるを得ず、挙句、大幅な支払いの遅延を受け、その遅延に対する遅延利息も支払われていないということになる。

 これで双方に損害がなく合意があったとは、なかなか納得しづらい話である。

 宮内市議はこうも指摘している。

 「分割払いは、業者に複数回の発注を約束したようなもの。結局、その後の公正な発注が妨げられた。」

 仮に、圧倒的に力関係が上の存在である市と業者等が契約する中で、市や職員がその立場を利用した不当に不利益を与える行為はしていないとするなら、業者には市議が指摘するような「今後の受注」に対する少なからぬ期待があり、市側も業者のそのような期待を見越し、利用するという、持ちつ持たれつの関係がうかがえる。

​ 実際に、内部通報により発覚しなければ、残金を支払う名目で、今後も安定的な契約が続くと期待できるものであっただろう。

 遅延金の支払いもなく双方で合意がなされたという主張の裏には、そのような背景もあると考えることが自然だろう。 

受注確定.png
処分の妥当性

 下水道課の不正契約事案で処分の対象となった行為は、

  • 地方自治法

  • 習志野市財政規則

  • 習志野市公営企業会計規定

の違反であると、市の発表した懲戒処分には記載されている。

 しかし、すでに指摘しているように、本件は、契約を行わずに発注した代金を支払うために、他の契約で金額を水増しした虚偽の書類を作成、行使し、公金を支出した事案である。

 契約を行わなかったことや、入札の手続き違反等は当然、地方自治法、習志野市財務規則ならびに習志野市公営企業会計規定に反するものではあるが、他の契約において、虚偽の金額を記載した見積書や請書等を業者に作成させ、それに基づき内部手続きを通過させ、公金を支出させたことは、刑法に規定される「虚偽公文書等罪」にあたる行為だ。だが、処分理由には挙げられていない。

 習志野市HPに、「懲戒処分の指針の策定について」というページがある。

 *習志野市懲戒処分の指針(Webページ)

 指針の策定の趣旨、概要のほか、飲酒運転に絡む処分が掲載されている。飲酒運転に関する処分を取り上げて列挙されているのは、施行された平成18年であることから、福岡市の職員が飲酒運転の末に追突事故を起こし、幼い子供3人が亡くなるという衝撃的な事件を受けてのことだろう。

 *福岡海の中道大橋飲酒運転事故(Wikipedia)

 

 上記ページには、飲酒運転以外の懲戒処分対象の行為、標準の処分例などは掲載されていない。

 職員の懲戒処分の指針は、市政の透明性を高め、市民の的確な判断に資するために、内外に示す必要性の高いものだが、市は公開していない。

 こういったことも、習志野市の市政運営の公開性、透明性を高める努力の欠如、あるいは、敢えて非公開とすることで公平性、客観性の確保や市民の市政参加の促進よりも、決定権者の裁量や権限の強化に重きを置く姿勢の現れと言えよう。

​​

 人事院の懲戒処分の指針は、人事院ホームページで確認することができる。

 *人事院懲戒処分の指針(Webページ)

 人事院の定める懲戒処分の標準例では、「虚偽の公文書の作成」をした職員は、免職または停職とされている。また、部下職員の非違行為を知得したにもかかわらず、その事実を隠ぺいし、又は黙認した職員は、停職又は減給とするとしている。

 さらに、個別事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得るとして、​標準例に掲げる処分の種類より軽いものとすることが考えられるケースとして、

 ① 職員が自らの非違行為が発覚する前に自主的に申し出たとき

 ② 非違行為を行うに至った経緯その他の情状に特に酌量すべきものがあると認められるとき

を例示している。

 そもそも人事院の懲戒処分の指針は、1990年代後半の旧厚生省汚職事件や旧大蔵省の接待汚職などを受け、懲戒処分を厳正にするために作られ、その後、2018年9月に、財務省森友学園をめぐる公文書改ざん問題などを受け、公文書に関する規定が新設されたという。

 習志野市の指針の策定は2018年12月であるから、人事院の指針に公文書に関する規定が織り込まれた後ということになる。​​

 *オンブズ通信「公務員の虚偽公文書作成・行使、他の自治体の処分は」

 ところが、市が行なった今回の処分は、

  • 企業局工務部副技監に対して減給10分の1、1ヶ月

  • 都市環境部課長に対して減給10分の1、1ヶ月

  • 企業局工務部主幹に対して戒告

である。その他4名の職員に対しては公表されていないが、指導措置が行われたと答弁にある。

 いずれの職員も、不正当時から内部通報により発覚する前に、昇任していると見られる。

 習志野市の懲戒処分の指針は、人事院の指針と「同等又はそれ以上の処分内容とした」と言うが、そもそも市は、顧問弁護士の意見を元に、本件を虚偽公文書作成・同行使には当たらないと捉えており、前提条件が異なる状態を作り出している。

 虚偽公文書作成・同行使に当たるか否かは、処分を決定するにあたり、重要な要素となりうるが、実際に違法行為が行われていたとしても、「罰を与えるほどの違法性はあるとは言えない」「刑法に値しない」などと、警察の介入もなく、事件を立件する検察でもない行政が、都合よく解釈でき、告発義務もなかったことにできるのであれば、法も指針も、もはや無意味である。これは、習志野行政を司る幹部が、誰一人止めることなく、雁首揃えて出した結論である。

 実際に、人事院の指針では、虚偽公文書の作成および行使は、免職または停職とされているが、市の行ったものは、最も重いものでも減給1ヶ月という処分だ。人事院の指針からはかけ離れた甘い処分で、習志野市の掲げる指針は”ハリボテ”であると言わざるを得ない。人事院の示す標準では、発覚前に自ら申し出した場合は軽減も考えられるとあるが、本件は、内部通報により発覚したものであって、不正行為を行った当人たちは、自ら申し出る気は毛頭なかったのである。

 さらに、市長、副市長、総務部長、総務部次長で構成されるという人事審査会では、「その性質上、会議録等記録を残していない」という(令和5年3月4日、平川議員答弁)。

 内実として、裁量の名の下に、恣意的な運用が行われていること、それは市長をはじめ市の幹部の暗の権限の強化であり、そういった組織風土が蔓延していることをうかがわせるものだ。

 

 結局は、公文書改ざんを受けて新設された人事院の規定に基づいたのではなく、規定が新設されてもなお規律を守らず、不祥事を繰り返す各省庁の甘い処分を参考にしたということであろう。

 住民に対しては、市のガバナンス意識の高さを誇示するかのように人事院の指針を後ろ盾として利用しておきながら、実態は指針を守らない省庁に倣って、かけ離れた処分を行っているのなら、ずいぶん白々しい話だ。​

 一般に、内規に当たる行政規則で公表されているものは、その規定自体は住民の権利義務に関係しないが、それを示すことで行政運営の公平性や透明性の確保、手続きの公正性に資する狙いがある。公文書を残すのは、のちの検証を可能にするためだが、敢えて記録に残さない市の方針には疑問としか言いようがない。

​​

 指針そのものを公表していないことも、住民の市政運営に対する関心、参画促進に市が消極的であることを示しているが、その示された一部ですら、公表していることと実態の乖離があれば、住民に対する欺きであり、自ら骨抜きにする行為に等しい。

​​​

 公文書の重要性、適法な手続きの軽視は、民主主義、法治主義に関わる土台を揺るがすもので、矮小化が許容されるものではない。その上で、内部通報が行われるに至った、市の組織風土と無自覚さに懸念を抱くものである。

image0-3.png
​内部通報と情報公開

 市民オンブズマン習志野が当初から求めていることは、適時適切な情報開示、および市の説明責任の遂行である。

 

 本件事案の発覚後、およそ2年にわたり公表そのものをせず、公表は職員の懲戒処分について、ホームページ上に掲載しただけのものであった。公表後も、翌月の定例会見で記者からの質問によって答えるという形で、自ら積極的に説明責任を果たし、信頼を回復していこうという姿勢を見せることはなかった。

 市議会や情報公開請求でも、公益通報者保護を理由に不正内容や内部調査に少しでも関係するような情報、おおよそ通報者が特定できるとは思えない情報までも開示を拒み、不必要に情報を制限してきた。

 公益通報者保護法は、事業者の法令違反行為を通報したことにより、通報者が解雇や降格などの不利益を被らないよう通報者を保護する法律である。

​ 法律により通報者を保護しようとするのは、公益通報がなければ、事業者の法令違反行為を覚知することはほぼ不可能だからである。法令違反が放置されれば、深刻な被害を国民にもたらすおそれがあることから、公益通報をより行いやすくする制度を整え、通報者を法的に保護し、公益通報による違法行為の早期発見と予防を期待するものだ。

 通報者に不利益を及ぼす対象と想定されているのは事業者であり、本件でいうと、習志野市企業局を含む習志野市である。

​​

 確かに、公益通報者を特定するような情報は法により守られなければならない。

 通報者が特定されれば、通報者は有形無形の不利益を受けるおそれがある。そのような事態になれば、報復を懸念して今後、公益に資する通報が行われなくなり、住民に深刻な被害を与える可能性があるからだ。

 

 しかし、市は、「懲戒処分について」で、対象の部課室、職位、年齢を公表しており、市の職員には秘匿する必要はないと判断している。企業局の是正措置では、「本件事案に係る具体的な非違行為を職員一人一人が確認」するような研修を行うとあり、市の職員には具体的に示すそうだ。

 また、形式的には市から独立している監査委員の住民監査請求の結果報告は、業者や職員個人の特定に結びつく情報は非公開としながら、おおよその内容がわかる程度に作成、公表されている。

 一方で、市は、市議の質問に対し、「調査内容にかかるもの」として、ほとんどの答弁を避けている。

 しかし、公益通報事案であるからといって、市の説明責任が免じられるはずはない。

 繰り返しになるが、市が自ら公表したのは、懲戒処分についての1点のみである。

 市は、本当に通報者を保護しようとしているのか。

​​

 市が制定した情報公開条例にはこうある。

 「第1条 この条例は、地方自治の本旨に基づいて、市民の知る権利を保障して、公文書の公開を請求する市民の権利につき定めることにより、市政運営の公開性の向上を図り、もつて市の諸活動を市民に説明する責務が全うされるようにするとともに、市民による市政の監視及び参加の充実に資することを目的とする。」

​​ ​ 

 習志野市情報公開条例に基づく我々の開示請求にも、何もかも内部通報事案に関わるとして、部分開示でもなく、全部非開示という決定を出した。

 情報公開条例による公開義務と公益通報者保護のための秘匿性を勘案した形跡もなく、通報者の特定につながる可能性が何かあるかもしれないというような、曖昧で不確かなものまで、一切の情報を頑なに開示しない姿勢た。

 これでは、通報をされた側が内部通報制度を利用して、都合よくブラックボックスにしたも同然である。

 内部通報が行われたのが令和3(2021)年11月。

 調査が開始されたのは、それから3ヶ月半後の令和4(2022)年3月。

 その年の4月には、市長選が行われ、再選を果たしている。

 通報が行われた不正行為の始まりとされる都市環境部主催の谷津干潟のイベントは、市長が参加し、NHKで報道されるものであった。

​ そして職員の懲戒処分として発表されたのは、通報からおよそ2年後、令和5(2023)年10月である。

 

 適切な公表を行わなかったことによって起きた損害に対して株主代表訴訟が起こされた有名な事件がある。

 その株主代表訴訟で、裁判所は、「『自ら積極的には公表しない』ということは、『消極的に隠蔽する』という方針と言い換えることができるのである。」と指摘し、「経営者としての自らの責任を回避して問題を先送りにしたに過ぎないというしかない」と非難している。

 

 不正行為そのものだけでなく、その後の対応がむしろ重要なのだ。

 公益通報を理由に、市で発生した不正行為や通報制度の運用について、説明せずにブラックボックスにすることが許されれば、到底、本質的な是正の期待はできないだろう。そうなれば、今後、内部通報による是正の機会をもたらす内部通報者は現れなくなり、公益通報制度そのものを実質的に無効化し、健全な市政運営を損なうリスクを高めることになる。

 

 それでは、通報者は一体何のために、通報したというのか。​

 不正行為、内部通報、異常に時間を要した調査、処分のあり様、公表必要性の判断、これら一連の事柄は、市の前時代的な組織風土、価値基準がもたらした問題が、表出したという面はありそうである。

image1-3.png
市民オンブズマン習志野、刑事告発へ

 令和6年3月、市民オンブズマン習志野は、千葉県警察、千葉県検察庁へ刑事告発を行なった。

 

 本件は、実態を欠く内容虚偽の公文書を作成・行使したことは明らかで、刑法第156条及び第158条の虚偽公文書作成罪等にあたるものである。

 

 公務員には、刑事訴訟法第239条第2項に基づく告発義務があるが、習志野市は顧問弁護士の「刑法の中に値しない」という意見を盾に刑事告発を行なっていない。

 

 習志野市の内部通報制度、情報公開制度、公文書管理等、いずれも住民の利益に資するために作られた制度だが、至る所で恣意的な運用が行われているおそれが露呈している。

 住民が、市政に対する判断を的確に行うためには、適時適切な情報開示は不可欠である。そこには、当然にマイナス情報も含まれる。

 しかし、習志野市は、積極的な公表を避け、内部通報制度を利用して情報の秘匿を行い、顧問弁護士の意見だと告発義務も果たさず、掲げた懲戒処分の指針とはかけ離れた処分を行う有様である。市議会は、地方議会に与えられた強い権限で調査を行える百条委員会(調査特別委員会)の設置も否決した。

 我々市民ができることは非常に限られている。

 住民の権利利益を害するおそれにつながるようなことは看過できるものではない。

 習志野市の不正発注問題 市民団体が告発 虚偽公文書作成の疑い - 朝日新聞デジタル2024.3.19

​ *習志野市の不適切会計 市民団体が告発状提出 - 千葉日報2024.9.11

bottom of page