骨抜きにされた習志野市「懲戒処分の指針」
- narashinoombuds
- 2024年11月22日
- 読了時間: 7分
更新日:2024年11月24日
職員の懲戒処分を行うにあたり、指針を作成している自治体は多いかと思います。
「懲戒処分の指針」は、
処分を公正公平に行うこと
処分の対象となる行為の未然防止の抑止効果に資するため
に作成されており、習志野市でも平成18年12月に制定されています。
習志野市も制定の趣旨を
懲戒処分の透明性を高め、懲戒処分を一層厳正に行うとともに、不祥事案ごとの具体的な処分程度を職員に示すことで、不祥事の発生を抑止し、市民の市政への信頼を確保するため策定いたしました。
と説明しています。
*「懲戒処分の指針」策定についてー習志野市HP
市のHPには、趣旨や概要が掲載されているだけで、指針そのものは公表されていません。これもまた、内部通報制度同様、内部のことだからという理由なのかわかりませんが、市民に知らせる必要のないものという扱いなのでしょう。
市民が知ることができなければ、正しい権力行使のあり方だったのか、検証することはできません。
*習志野市懲戒処分の指針は、市民オンブズマン習志野のHP、オンブズ資料室(市政・事務に関するもの)にあります。

さて、習志野市懲戒処分の指針のうち、処分の標準例の「一般服務関係(13)」に、「公文書の不適正な取り扱い」という項目があります。
(13)公文書の不適正な取扱い ア 公文書を偽造し、若しくは変造し、若しくは虚偽の公文書を作成し、又は公文書を毀棄した職員は、免職又は停職とする。 イ 決裁文書を改ざんした職員(ウに該当する職員を除く。)は免職又は停職とする。 ウ 公文書を改ざんし、紛失し、又は誤って廃棄し、その他不適正に取り扱ったことにより、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、停職、減給又は戒告とする。
ここには、しっかり、「虚偽の公文書を作成した職員は、免職又は停職とする」と記載されています。

習志野市の懲戒処分の指針は、人事院の指針に倣ったもので、市のHPには、「同等またはそれ以上」と記載し、まるで人事院の指針よりも厳しい指針としているような書きようです。
しかし、虚偽公文書作成、同行使が行われた習志野市下水道課不正契約事件では、免職どころか、停職になった職員もおらず、最も重い処分で減給1ヶ月(10分の1)です。
*習志野市懲戒処分についてー習志野市HP
市は本件について、顧問弁護士の助言を受けて「虚偽公文書作成・行使」ではなく、「不適切な事務」と捉えていると市議会の答弁で述べています。

不適切な事務であることも間違いないでしょうが、未払金を支払うために、別の契約で、本来の金額ではなく、「虚偽」の水増しした金額を記載した公文書を作成・行使したことも事実です。
*
ところで、習志野市下水道課不正契約事件が発覚したのとほぼ同じ頃、愛知県新城市でも、職員による虚偽公文書作成事案が公表されています。
*職員による虚偽公文書作成事案の発生ー愛知県新城市2023.11.17
新城市の発表によると、
令和5年3月に別の職員が2路線の委託業務の綴りを見ていたところ、納品物がないことに気づき、事業が完了していないことを確認しました。 報告を受けた市は顧問弁護士に相談。本事案は地方自治法第234条の2第1項等に反する実態を欠く内容虚偽の公文書を作成し、これを行使したことになり、刑法第156条及び第158条の虚偽公文書作成罪等にあたるため、刑事訴訟法第239条第2項に基づく告発義務により刑事告発を検討する必要があると助言を受けました。 このため、市では令和5年8月25日に愛知県警に事案を相談し、その後愛知県警により捜査が進められました。 令和5年11月13日に概ね全容が明らかになったため、市として事案の公表に至ったものです。
とのことで、
新城市は、
顧問弁護士に相談
顧問弁護士は、虚偽公文書作成罪等にあたるため、刑事告発を検討する必要があると助言。
愛知県警に相談し、県警により捜査が進められた。
概ね全容が明らかになり次第、市として公表。
懲戒処分
という経過で判断・対応を進めてきたことがわかります。
一方、習志野市は、市長の定例記者会見で、記者から質されてようやく答えるという消極的・事後的な公表で、多くの市民は新聞報道で知ることになりました(そもそも知らない人も多いです)。
その後の市議会では、
公文書偽造ではなくて虚偽公文書行使というところの御指摘なのかなというふうに思います。そちらについても、私ども、弁護士のほうに御相談を申し上げてございます。この虚偽公文書の行使につきましては、実効的な行為があるというふうに言ったところで、もう一方でこれが罰を与えるだけのものに値するのかどうか、可罰的違法性ということにたしか弁護士は言ってたと思いますが、それにも当たらないということでございました。したがいまして、先ほど申し上げましたとおり、公文書の偽造、そして、この虚偽公文書の行使、このような刑法の中に値しないという意見を基に、繰り返しになりますけれども、この不適切な事務処理という本市の指針に基づき処分をさせていただいたところでございます。
と、当時の総務部長(現副市長)が答弁しており、事案発覚後、
顧問弁護士に相談
「実効的な行為があるといったところで、可罰的違法性にもあたらない」「刑法の中に値しない」と助言・意見。(弁護士)
警察に相談した形跡は見当たらない
内部通報事案であることを理由に秘密裏に調査
弁護士の助言を元に処分を行い、懲戒処分の公表
懲戒処分の公表を受けて、記者から質されて事件の概要をようやく説明
という経過です。
習志野市の行った処分も、「実際に違法行為が行われた」けれども、「罰を与えるだけのものに当たらない」「刑法の中に値しない」というアドバイスを受けて(このアドバイスもどうかと思いますが)、事実認定自体を別のものに変えてしまうという驚きの処分です。

その後も内部通報事案であることを理由に、その原因である不正行為についての情報も秘匿し、市民オンブズマン習志野が住民監査請求を行ったことで、ようやく一定の事件の詳細が判明するに至っています。
・・・新城市の対応と、ずいぶんな違いです。
また、習志野市はこの調査に1年7ヶ月を費やし、調査終了後、懲戒処分まで行なったあとに公表しており、発覚から公表まで、実に1年11ヶ月、およそ2年を要しています。
その間、市長選があったことも影響しているのでしょうか、市長選後に公表です。
そして虚偽公文書作成、同行使を行った新城市の職員は、もっとも重い処分で停職3ヶ月を受けています。3ヶ月間は職務に就けず、もちろん給与は支払われず、査定にも響きます。
一方、習志野市は、減給10分の1を1ヶ月ですから、査定に響くのは同じですが、1ヶ月間数万円(せいぜい3〜4万円)の減給のみということですね。
*懲戒処分の公表ー新城市
この一連の流れ、対応の違いを見るだけでも、市の事案の受け止めの程度が知れるようですし、理屈の通らない独特の解釈で処分を行い、市民へ真摯に説明しようというよりも、あわよくば多くの市民が知ることのないまま済ませたい意向が透けて見えるようで、不正を行なった職員だけが問題なのではないということが、ひしひしと伝わってきます。懲戒処分まで行ってから公表と、異論を挟む余地をなくしている辺りも、ずいぶん狡猾です。
事実認定を歪めて処分を思うようにコントロールできるのであれば、指針を骨抜きにしたも同然です。これでは、指針の制定のねらいである処分の対象となる行為の未然防止に繋がるとはとても思えませんし、透明性は失われ、今後の公平な処分への影響も懸念されます。
また、本件が公益通報事案であることを鑑みると、「習志野市に公益通報を行ったとした場合の同市の対応」を内外に示したに等しく、公益通報保護法の求める自浄作用も、抑止効果も期待はできないと言えるでしょう。
本件の与える影響の大きさと、市政運営に携わる公務員としての無自覚さに、市民として不安を覚えます。
人事院の定める懲戒処分の指針と「同等またはそれ以上」の言葉が、なんだか虚しいです・・。
習志野市下水道課不正契約事件の詳細はコチラ